斜度12度の恐怖心

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あけましておめでとうございます。こども学科の柏木です。

この年末年始に、10歳の息子と二人で白石蔵王に行ってきました。息子が「スキーをしたい!」と言うので、キッズ向けのスキー場をネットで探して、みやぎ白石蔵王スキー場に行くことにしました。このスキー場は、初心者用のコースのクオリティーが高いみたいで、「ここなら、大丈夫かな」と思いました。

僕がスキーをするのは、実に28年ぶり。かつて18歳の頃に、当時の仲間たちとスキーをしに行った以来です。スキーのレベルも、小学生の頃に一度スキー教室で少し習った程度で、まさに初心者です。

みやぎ白石蔵王スキー場は、それこそ初心者向けのコースが広がっているのですが、それでも初心者には恐ろしく感じられます。ゲレンデに出ると、目の前にリフト乗り場があり、そのリフトに乗ると、560mほど離れた初心者コースの出発地点に連れていってくれます。平均斜度は12度。きっとスキーに詳しい人なら、笑ってしまう斜度だと思いますが、28年ぶりの初心者の僕には、奈落の底に落ちるかのような恐ろしい下り坂に感じられました。

とりあえず、はるか昔に学んだボーゲンを思い出し、恐る恐る滑り始めます。たった12度の斜度ですが、それがとてつもない急斜面に見えるのです。僕が恐れおののいている隣りで、息子が(昨年習った)ボーゲンで、楽々とコースを滑っていきます。僕も息子に追いつこうと、必死に前に進もうと思いますが、怖くて前に進めません。「パパ―! 早く!」という声が遠くから聞こえます。

それを聞いて焦った僕は、「きっと大丈夫だ」と自分に言い聞かせて、勢いのままに滑り下りました。そうすると、滑る速度が加速していき、恐ろしいスピードで駆け下りていくではありませんか。「ヤバい…。怖い…」。ふと、かつてのスキー教室で学んだ「加速したら転べ」という言葉を思い出し、あえて態勢を横に崩して、転びました。転んでようやく止まりました。心臓が止まるかと思いました。

そして、二度目のチャレンジ。再びリフトに乗り、560m進んだところでリフトを降りて、再び滑ります。しかし、先ほどの加速したスキーの恐怖から、身体が動きません。ちっとも前にも進みません。怖いのです。恐怖心が芽生えてきて、どうしていいかも分からなくて、半ばパニック状態になりました。少し進んだだけで、恐怖を感じるのです。ボーゲンも上手にできないので、身体中が力んで、うまく自分の態勢を維持することができません。あっという間に、転倒して、雪の上に寝転んでしまいました。うまく起き上がれません。

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「落ち着くんだ」、「冷静になるんだ」、「恐怖心に負けてはいけない」などと、自分自身に言い聞かせてみるものの、そんな簡単に恐怖心を拭い去ることなんてできません。

今の自分にできることは、まわりでスキーをしている人の動きを観察することだ、と思いました。幸いにも、僕と同じような初心者やそこそこ上手に滑れる人が多数いたので、そのスキーヤーの動きをよく見て、どうしたらよいのかを、転んだ状態で見て学ぼうと思いました。

他の人の動きを見ていると、誰も力んでいません。左右の足を交互に動かしながら、うまくバランスを取って滑っています。「ハの字」をそこまで強調している人もいません。力を抜いて、バランスをうまく取りながら、スキー板を少し斜めにすることで、上手に失速させながら、前に滑り降りていけばよいのか、と思いました。

滑り始めてから3時間ほど、こういうことを繰り返し続けていると、徐々にうまくバランスが取れるようになってきました。最初に抱いた恐怖心も次第に小さくなっていき、5時間くらい地道に滑り続けていたら、それなりに気持ちよく楽しく滑ることができるようになっていました。息子にも、「パパ、上手になったね」と褒めてもらえました。

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さて…

本学の2年生はこれからいよいよ社会人となり、教師や保育者の道を歩むことになります。また1年生はこれから本格的な実習が始まります。2年生からは、「保育者としてやっていけるかどうか不安だ」、「わたしみたいな人間がはたして保育者としてちゃんと務まるのかどうか心配だ」、という声が聴こえてきますし、1年生からは、「実習が心配だ」、「実習に行くのが怖い」、「不安でそわそわする」という声が聴こえてきます。

これまでの僕であれば、「大丈夫だよ。若いのだから、全身全霊でぶつかればいい」とか、「不安や心配は要らないよ。みんな、同じ不安や恐怖を感じているのだから」とかと言っていたと思います。「誰だって、最初は怖いものだよ。慣れてくるから、大丈夫だよ」、と偉そうに諭していたと思います。

しかし、今回、スキーでの自分自身の恐怖心に直面して、そうした返答がすべて間違っていたことにはっと気づいたのです。学生たちは、今まさに「不安」や「恐怖」を抱えているのであり、その不安や恐怖に寄り添おうとしていませんでした。スキーの上級者が初心者にかける言葉ではありませんでした。

たった12度の斜度ですが、それがとてつもない恐怖だったのです。上級者から見れば、「たかが12度」ですが、初心者の僕からすれば「恐ろし過ぎる12度」なのです。それを、笑って「たった12度じゃないか」と言ったところで、何がどう変わるというのでしょう。

学生にとってみれば、社会人1年目にせよ、初めての実習にせよ、それ相当の恐怖心を抱いているものです。長いこと、教師や保育士の養成課程の教員をしていると、そうした恐怖心を忘れてしまうというか、それが見えなくなってしまうというか、そこをすっ飛ばしてしまうというか、そんな感じになってしまいがちです。

人が何かに直面して、とてつもない恐怖を感じている時に、実際にどのようにふるまうことが、寄り添うことになるのか。また、その際に、具体的に最も効果的な助言やアドバイスというのはいったいどのようなものなのか。改めて、自分自身に突き付けられた問いだと思いました。安易に「大丈夫だよ」とか、「頑張って」とかと言ってはいけないな、と。

誰でも最初は初心者ですが、しばらくすれば中級者となり、やがて上級者になります。上級者になった時に、初心者の不安や恐怖とどう向き合うか。これは、(上級者を大人、初心者を子どもと解釈すると)こども学科のすべての人にかかわる問題だと思います。

また、この春に本学こども学科に入学してくる入学予定者にもかかわることです。われわれ教職員からすれば、毎年恒例の当たり前の入学シーズンですが、その入学シーズンに、不安や恐怖を感じる新入生もいるということを忘れずにいたいなと思いました。

そう思わせるくらいに、それはそれは恐ろしい12度の斜度でした。

(柏木恭典)