ヴィヴィアン・オーブの起源

図1
ヴィヴィアン・ウェストウッドのロゴ

 

 ヴィヴィアン・ウェストウッドといえば「オーブ」と言っても過言ではないほど、今やオーブ・ロゴは彼女のブランド・アイテムには切っても切り離せない存在となっていますね。
 日本では映画にもなった矢沢あいさんの『NANA~ナナ~』の影響がすごく大きかったですが、この作品に登場するヴィヴィアンのアイテムとオーブに沢山の若者たちが魅了されてきました。
 ヴィヴィアンを知らない人でも、このロゴを見るだけでなぜか惹きつけられてしまうような力が、このデザインにはありそうです。このオーブはどうしてこんなにも多くの人びとを惹きつけてしまうのだろう?
 そこで今日は、この不思議な魅力を放つヴィヴィアン・オーブの誕生にまつわるエピソードを紹介することで、その魅力の秘密の一端に迫ってみたいと思います。
 はじめに個人的な話になりますが、私がアバクロンビー&フィッチのウールのジャケットを手に入れたときのことです。そのジャケットの裏には、当然、アバクロンビー&フィッチのロゴ・マークが縫い付けられていました。
アバクロンビー&フィッチのジャケットとロゴ・マーク

 

 しかし、それと同時にもう一つ、素材のウール生地のロゴマークも縫い付けられていました。
図4
ハリス・ツイードのオーブマーク

 

 それを見たとき、一瞬「アレッ!」と思いました。何と、そこにヴィヴィアンのと似たようなオーブ・マークが付いているではないですか。これはきっとヴィヴィアンのオーブと関係があるに違いないと思い、さっそく調べてみることにしました。

起源はハリス・ツイードのオーブ・マーク

 ハリス・ツイードのマークは「オーブ&マルチーズ・クロス」(Orb and Maltese Cross)といって、1909年に英国王室から使用許可を得てつくられ、イギリスの高品質毛織物を表す伝統的なシンボルとなっているものです。
 「マルチーズ・クロス」(マルタの十字)とは、元々は地中海のマルタ島の騎士団のシンボルで、角が広がっている形の十字です。その後ヨーロッパの王族たちが好んで取り入れてきました。
「オーブ」(Orb)とは、英国の王室が使用する王冠や杖にあしらわれている「宝珠」と言われるものです。
図5    図6
エリザベス女王が儀式で用いる王冠と杖

 

 エリザベス女王が儀式で使われる王冠や杖をよく見ると、その先端にはこの「オーブ&マルチーズ・クロス」が付いています。ハリス・ツイードのオーブ・マークはこれをモチーフにデザインされたものなのです。
 まさに英国王室御用達という、権威を感じさせるマークですね。
 で実は、ヴィヴィアンのオーブの基になっているのは、このハリス・ツイードのマークなんですね。
 でもそのまま借用したのでは、単なるパクリになってしまいますね。
 ヴィヴィアンの凄いところは、これに新しく、土星の輪のような「衛星」(satellite)を付け加えて、「伝統と未来の結合」という彼女独自のブランド・コンセプト表現するシンボルにしたことなんです。
 マルチーズクロスの部分なんかほとんど同じだし、衛星を取っちゃえばそのままハリスツイードになってしまいそうですよね。

ヴィヴィアンとハリス・ツイードとの出会い

 この経緯をヴィヴィアンがあるインタビューで答えている記事があるので、ちょっと訳して紹介します。1985年頃、彼女がそれまで常にパートナーとして一緒にパンク・ファッションを仕掛けてきたマルコム・マクラーレンと分かれて、デザイナーとして独自の道を切り開こうと、「Harris Tweed AW 1987-88 Collection」の準備にかかっていた頃のことです。
 「私は、そのときイタリアで基礎素材を探していたんだけど、ハリス・ツイードと一緒に仕事をしていて、とっても、とってもイギリス的なものに基づいた、本当にキッチュな (わざと崩した)コレクションにしようと決めていたの。
 そしたら、目の前にオーブが現れたのね。
 というのも、チャールズ皇太子のために、彼がキルトをはおって狩猟や釣りに行くときに着てもらうために、こんなキッチュなセーターが欲しかったのね。
 このセーターは、イングランドの紋章である薔薇にライオン、アイルランドのシャムロック、スコットランドのアザミのようなシンボルをもっていたわ。
 そして、デザインの空のどこかにこのオーブがあったの。
 私は、そのオーブに未来的(futuristic)な外観を与えるために、その回りに衛星(satellite)を付け加えたの。
 だって、最近はみんなちょっとコンピューターっぽい感じでしょ。
 私のマネージャーのカーロ(現Vivienne Westwood CEO)は私に、それを君のシンボルにすべきだ、って言ったわ。
 でも私は、すぐにはそうしなかったのね。そしたら、彼は語気を強めてこう言ったの。
 『それは伝統と未来との結合(it’s a combination of tradition and future)なんだ』、とね。 」
 と、こんないきさつでヴィヴィアンが彼女独特のオーブ・ロゴを生み出したということです。そして、このロゴがはじめて公表されたのが、「ハリス・ツイード」をテーマにした「1987-88 秋冬コレクション」
なのでした。今から30年ほど前のことです。
 人びとを惹きつけるヴィヴィアン・オーブの魅力の秘密は、まさに英国王室の高貴な「伝統」(tradition)の輝きに「未来」(future)の夢をプラスしているところにあるのではないでしょうか。(by 中村)
図7